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東京地方裁判所 平成8年(む)325号 決定 1996年3月28日

主文

本件準抗告の申立てを棄却する。

理由

一  本件準抗告の申立ての趣旨は、犯則嫌疑者Aに対する証券取引法一五八条違反犯則事件について、東京簡易裁判所裁判官がした、捜索場所を「山梨県富士吉田市《番地略》A’ことA居宅及び付属建物」、「山梨県富士吉田市《番地略》株式会社甲野本社事務所及び付属建物」とする各捜索差押許可状による各捜索差押の裁判はこれを取り消す旨の裁判を求めるというものであり、その理由は、要するに、右各捜索差押状は、全く捜索差押の必要性がないのに請求、発付されたものであるから違法であるというものである。

二  一件記録によれば、本件準抗告は、東京簡易裁判所裁判官が、証券取引法二一一条の規定に基づいて、証券取引等監視委員会職員がした請求に対して発付した臨検・捜索・差押許可状による捜索差押の許可に対して申立てられたものである。右裁判官の許可は刑事訴訟法上の裁判には当たらないところ、このような行為について同法四二九条の規定の準用を認めるのは相当ではなく、その許可の取消を求める準抗告が不適法であることは、最高裁昭和四四年一二月三日大法廷決定・刑集二三巻一二号一五二五頁の趣旨から明らかである。

なお、申立人代理人は、本件手続は、右最高裁決定で問題となった国税犯則取締法上の収税官吏による犯則事件の調査と異なり、実質は刑事手続であって、刑事訴訟法四二九条が準用されるべきであると主張するが、右最高裁決定は、国税犯則取締法二条に基づく裁判官の許可は、職務上の独立を有する裁判官が、公正な立場において収税官吏の請求を審査するもので、強制処分の実施を命ずるものではなく、国家機関相互間の内部的行為に過ぎないとして、刑事訴訟法四二九条の準用を認めるのは相当ではないと判断しているのであって、証券取引法二一一条に基づく裁判官の許可についても、その性格は基本的に同一と考えるべきであり、関係する諸規定の内容がほぼ同一であることをも考えれば、証券取引等監視委員会による犯則事件の調査と収税官吏による犯則事件の調査を別異に解するのは相当でない(なお、弁護人は、証券取引法二二七条により、同法二一一条に基づき証券取引等監視委員会職員がした処分については行政不服審査法による不服申立てができないことをも、別異に解釈すべき理由に挙げているが、行政不服審査法四条一項七号によれば、国税犯則取締法二条に基づき収税官吏がした処分についても、行政不服審査法による不服申立てはできない。)。

以上の次第で、本件準抗告の申立ては不適法である。

三  よって、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 金谷 暁 裁判官 若園敦雄 裁判官 佐藤晋一郎)

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